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2020.4.30

新型コロナウイルス感染症影響下におけるテナント賃料支援制度について

弁護士 呉 英浩

 新型コロナウイルスの感染拡大及び緊急事態宣言下での営業自粛要請に伴い、飲食店をはじめとするテナントの賃料負担に注目が集まっている。全国宅地建物取引業協会連合会が政府閣僚及び自民党に対し要望書を提出するなど、賃料支援制度の創設が希求されている。※1

 二〇二〇年度補正予算案の審議開始に伴い、野党5党が国会に提出した「事業者家賃支払い支援法案」では、
・新型コロナウイルス感染症の影響による休業等により売上が今年2月以降の一月で対前年比20%以上減収となった中小企業者等を対象に、日本政策金融公庫が不動産賃料債務の全部又は一部を代位弁済すること(第3条)
・国は、賃貸人が減額した賃料債務の一部を補助する等必要な財政上の措置を講ずること(第5条)
といった内容が盛り込まれている。※2他方の与党は、「融資と助成のハイブリッド型の新たな仕組み」(緊急経済対策に盛り込まれた実質無利子・無担保融資を受けた事業者に対する家賃支払い分の助成)を提案するが、本稿脱稿時点(2020年4月29日)ではその詳細は不明である。※3

 報道等で耳目を集めるのは飲食店等の建物賃料であり、そこでは暗にテナントがオーナーに対して弱い立場にあることが想定されているように思われるが、サブリースやロードサイド型店舗等ではテナントとオーナー(地主含む)の「力関係」が逆転していることも多い。また、いわゆる不動産投資家に限らず、金融機関の融資を受けて賃貸事業を営んでいる場合も多く、オーナー側にも固定費の支出が毎月生じている。観測の範囲では特に大手テナントの動きは非常に早く、資金繰りの面でも人的リソースの面でも劣る中小オーナー側が苦境に立たされる場面もかなり出てくると思われる。これらを考慮すると、賃料支援策は、テナントとオーナーの双方の利害に配慮した制度が望ましいだろう。しかし、既に実施され又は今後実施されることが予定されている政策で、オーナーによるテナント賃料の減免や支払猶予に直接関連するものは、
・減免賃料についての税務上の損金計上(既存通達の改正)
・税・社会保険料の納付猶予における賃料減免や支払猶予の減収扱い(法令未成立)
・固定資産税・都市計画税の減免における賃料減免や支払猶予の減収扱い(法令未成立)
と現時点では限られている 。

 オーナーとテナントとの間で実際に賃料減免や支払猶予の交渉が行われる場合、民法や借地借家法、その他一般原則のほか、まずは賃貸借契約書の文言がその端緒となるが、目下与野党で協議されている家賃支援制度も、交渉の一材料となることが予想され、その帰趨が注目される。

以上

※1全宅連HP https://www.zentaku.or.jp/news/4756/
     及びhttps://www.zentaku.or.jp/news/4789/
※2国民民主党HP https://www.dpfp.or.jp/article/202854
※3日経新聞社https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58596370Y0A420C2PP8000/
時事ドットコムhttps://www.jiji.com/jc/article?k=2020042801151&g=pol
※4国土交通省2020年3月31日付通知「新型コロナウイルス感染症に係る対応について(依頼)」においても「飲食店をはじめとする事業者/テナント」に言及されている。https://www.mlit.go.jp/common/001340555.pdf
※5 国土交通省2020年4月17日付事務連絡「新型コロナウイルス感染症に係る対応について(補足その2)」https://www.mlit.go.jp/common/001342205.pdf