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2018.1.15

争族(相続)の落し穴 -第3回 生命保険の落し穴-

~相続に関する法制度と常識的な感覚,または,相続税法の取扱いとの相違等を中心とした相続に関する陥りがちな“誤り”に関する話題を中心としたコラムです~

弁護士  水谷 繁幸

第3回 生命保険の落し穴

 近年,相続対策として生命保険を活用することが少なからず行われております。確かに,生命保険金(死亡保険金)は,指定された受取人に支払われる固有財産であり,被相続人の相続財産とはされておらず,また,遺留分算定の基礎ともされていません。
 しかし,後記のとおり,税制上は保険金の受取人が相続人であれば一部控除はあるものの相続税の課税対象となる他,民事上も,相続財産に比してあまりに多額の保険金額を設定すれば特別受益として遺産分割の際に持ち戻しの対象とされる(すなわち,すでに取得した相続分とみなされる)こともあるので注意が必要です。

第1 相続税法上の取り扱い
 死亡保険金は,民法上の相続財産ではありませんが,相続税法上は相続財産として課税対象となります。
 ただし,契約者と被保険者が被相続人であり,かつ,受取人が相続人である場合に限り,法定相続人の数×500万円相当額が課税対象となる相続財産額から控除されます。なお,受取人が相続人以外の場合には,そのような控除はなく,受取額全額が相続課税の対象たる相続財産に組み入れられますのでご注意下さい。
  
第2 民法上の取り扱い
 生命保険金は民法上被相続人の死亡時に存在した相続財産とはされていません。
 この点を強調して,生命保険金を使えば遺留分を回避できるというような説明がなされることもありますし,同説明は基本的には正しいといえます。
 しかし, 最高裁は,事案によって特別受益に準じて遺産分割の際や遺留分算定の際に死亡保険金額を持ち戻し(相続財産に加算)の対象とすると判示しており(最高裁第2小法廷決定平成16年10月29日),例外もあることに注意が必要です。
 すなわち,①保険金の額,②この額の遺産相続に対する比率,③受取人と他の相続人と被相続人の関係,④各相続人の生活実態等の事情を総合考慮して是認できない程度に不公平といえる場合には持ち戻しの対象とするとしています。
 同判断は,事案毎に評価を要するものであり,明確な基準を提示したものではありませんので,最終的な判断は裁判所によることとなりますが,東京家庭裁判所における遺産分割調停では相続財産総額の6割を超えているかを一つの基準としているようです。
 そのため,見込み相続財産に比してあまりに過大な死亡保険金を設定するような場合,特定の相続人に多くの遺産を分配する目的を実現するためには,別途遺言等の手当を検討する必要もあります。また,遺留分を減ずることまでも目的とする場合には,持ち戻しの結果,被相続人の意図が実現されない場合もあるため注意が必要です。

 ※関連法規は2017年12月時点による