法務コラム
おゆうぎ会のライブ配信について
1 はじめに
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、一昨年、昨年と、入学式、卒業式、運動会、文化祭といった学校行事が中止になったり、保護者の参観が不可となったりした学校は多いのではないでしょうか。
筆者の子供が通う保育所でも、一昨年の行事は中止となるものが多く、保護者としては子供の「よそゆき」の様子を知れる数少ない機会がなくなって残念な思いをしたのですが、昨年は運動会やおゆうぎ会が録画禁止等様々な条件付きでライブ配信されました。
今回は、おゆうぎ会のライブ配信にまつわる著作権法上の問題についてご紹介します。
2 著作権法第35条
著作権法上、著作物を公に上演・演奏する権利、公衆送信する権利は著作者が専有するとされており(第22条、第23条)、他人の著作物である楽曲を流したりインターネット配信したりする場合は原則として著作権者の許諾が必要となります。
もっとも、著作権にはいくつかの権利制限があり、その一つである2018年改正、2020年4月28日施行の改正著作権法第35条は、以下のとおり定めています。
第35条
学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、公表された著作物を複製し、若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあっては、送信可能化を含む。以下この条において同じ。)を行い、又は公表された著作物であって公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該複製の部数及び当該複製、公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
2 前項の規定により公衆送信を行う場合には、同項の教育機関を設置する者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。
3 前項の規定は、公表された著作物について、第一項の教育機関における授業の過程において、当該授業を直接受ける者に対して当該著作物をその原作品若しくは複製物を提供し、若しくは提示して利用する場合又は当該著作物を第38条第1項の規定により上演し、演奏し、上映し、若しくは口述して利用する場合において、当該授業が行われる場所以外の場所において当該授業を同時に受ける者に対して公衆送信を行うときには、適用しない。
3 著作権法第35条に基づいて保護者に対するおゆうぎ会のライブ配信が可能か
第1項を一見すると、
〔1〕保育所は「学校その他の教育機関」に含まれるのか?
〔2〕運動会やおゆうぎ会は「授業」に含まれるのか?
〔3〕保護者への配信は「必要と認められる限度」の公衆送信なのか?
〔4〕どういう行為が「著作権者の利益を不当に害することとなる」のか?
という疑問が生じますが、「著作物の教育利用に関する関係者フォーラム」による「改正著作権法第35条運用指針(令和3(2021)年度版)」(以下「指針」といいます。)及び同追補版(以下「追補版」といいます。)においてこれらの解釈が示されています。
まず、〔1〕については含まれるとされています(指針6頁)。
〔2〕について、「幼稚園…等、初等中等教育で行われる入学式、卒業式、始業式、終業式、修学旅行、運動会、水泳大会、文化祭、合唱祭等の学校行事は、一般的に、学校教育法施行規則、及び、学習指導要領に基づき各学校が編成する教育課程において「特別活動」に位置づけられるものであり、少なくともこうした教育課程上の活動は著作権法上の「授業」に含まれる」とされており(追補版1頁)、保育所における運動会やおゆうぎ会も、同様に教育課程上の特別活動として「授業」に含まれると考えられます。
〔3〕については、授業参観時の保護者等は、一般的には児童生徒等が授業を受けている様子を参観しているのであって、「教育を担任する者」又は「授業を受ける者」には該当しないが、授業の過程において、コピーし児童生徒に配布したり、送受信したりした著作物と同じ著作物を、教室で実際に授業参観する(参観できる)保護者の人数以内で、コピーを渡したり、インターネット配信することは「必要と認められる限度内」であるとされています(追補版2頁)。
その上で、「初等中等教育での特別活動時において、児童生徒の個人情報・プライバシー保護、及び、セキュリティに関する学校の取り決めに同意して参観が認められた保護者、協力者等に限定して、著作物を利用した各特別活動の映像や音声をネット・ミーティングシステム等を用いてリアルタイム(ライブ)配信する行為は、必要と認められる限度内である」とされています(追補版3頁)。
したがって、このような態様でのおゆうぎ会のライブ配信については、著作権法第35条1項及び2項に基づき、著作権者の許諾を得ず、有償で(相当な額の補償金を支払って)行うことが可能だということになります。
ただし、「特別活動の映像等の配信を受ける保護者等が、同居する家族等私的複製目的の範囲を超えて、権利者に無断で、特別活動で利用した著作物や映像、教材等の URL の他人への拡散、配信された映像の保存(ダウンロード)や他人への転送、画面キャプチャー、SNS 等への転載などを行わないよう、特別活動の主催者(学校長等)は保護者等に事前に十分に説明し、著作権の保護に関して理解と協力を求め、保護者等から同意を得ておく必要がある」(追補版3頁)とされていますので、注意が必要です。
また、〔4〕に関し、保護者以外の者に配信して視聴させることや、オンデマンド型コンテンツ(教材)として、いつでも視聴できるようにサーバ・ストレージ等に保存しておくことについては、「著作権者の利益を不当に害する」行為の例としてあげられていますので(追補版5頁)、このような配信はできないことになります。
4 おわりに
おゆうぎ会がライブ配信されること自体、新型コロナウイルス禍がなければ起こり得なかったでしょう。また、著作権法旧第35条には公衆送信を認める文言がなかったため、改正がなければ、使用される楽曲等の著作権者の許諾がない限りおゆうぎ会をライブ配信することもできなかったと考えられます。
保護者としては、ただでさえ多忙な中、状況に応じて子供も保護者も楽しめる方法を探り当てて実施して下さった保育所の先生方に頭が下がる思いです。
※2022年1月時点の法律によります。